大阪市立大学工学研究科環境計画研究室

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研究テーマ

都市のエネルギー有効利用技術,排熱の都市外への放散促進

人工排熱低減対策の課題

都市内施設における排熱処理と熱回収

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中尾 正喜
Masaki NAKAO
大阪市立大学大学院 Osaka City University
Corresponding author: Masaki NAKAO

ABSTRACT

In Japan, almost half of energy in home and business is consumed for heating. According to the study conducted in Kansai area including such as Kyoto, Osaka and Kobe, more than half of the artificial exhaust heat consists of industrial exhaust heat in Hyogo and Osaka prefecture areas where many factories reside. Unfortunately such exhaust heat from factories is not utilized for private homes or business offices even though it can be used for them. While Japanese government both central and local have put considerable efforts in R & D for “The thermal energy supply network in wide area” to utilize industrial exhaust heat in urban areas, Japanese cities have not been able to implement it as much as they do in European advanced cities in order to improve the thermal energy utilization in urban areas. I will review the obstacles and the current trend, and propose measures in innovating the thermal energy metabolism in Japanese cities.

キーワード:
エネルギー代謝,エネルギー消費,排熱,熱回収,熱エネルギー供給ネットワーク
Key Words : Energy metabolism, Energy consumption, Exhaust heat, Heat recovery, Thermal energy supply network

  1. 1.都市の代謝系と熱代謝の改善
  2. 都市を代謝系としてみると,都市域内外からエネルギー,水,物質の供給を受け,都市活動において消費され,排熱,排水,廃棄物を気圏,水圏,地圏に排出するモデルで示され(図1),代謝系の改善のため,都市内の物質系,水系,エネルギー系のリサイクルにより,都市へのエネルギー,水,物質の供給量および都市からの排出量を低減する努力がなされてきている(図2).系間の連係による都市代謝系の改善努力として,ごみ発電のような物質系とエネルギー系の連係や,下水消化ガス発電のような水系とエネルギー系の連係事例がある.
  3. 図1 都市の代謝系
    図2 都市代謝系の改善
  4. 交通部門と産業部門を除き,都市へのエネルギー供給と熱代謝に注目する.都市に供給された電気,ガス,石油は,主として業務部門と住宅部門で消費され,最終的に熱として都市内の気圏,水圏,地圏に排出される.都市における熱需要施設である建物内の排熱回収,都市内排熱施設から熱需要施設への排熱回収に取組むことにより,エネルギー供給量や人工排熱の排出量を低減できる.エネルギー供給量の低減は温暖化対策に貢献し,人工排熱量を低減することはヒートアイランド対策に貢献する.特に気圏への排出を抑制することがヒートアイランド対策として喫緊の課題である(図3).
  5. 図3 都市におけるエネルギー供給と熱代謝改善
  6. 以上,都市における熱エネルギー代謝系の変革は熱の回収(リサイクル)利用を徹底することであると言えよう.その際,これまで以上に,エネルギー系,水系,物質系を連係させた新たな取り組みが必要となろう.
  7. 2.エネルギー消費と排熱の特徴
  8. 2-1:日本におけるエネルギー消費は図4となっている.産業部門が48%,家庭部門15%,業務部門12%であり,都市域には産業部門の一部と家庭部門,業務部門の大半が存在すると推定される.家庭部門で使う全エネルギーのうち55%は暖房と給湯用途に消費されている (図5).さらに驚くべきことは,エネルギー源別に見ると,家庭部門で消費する給湯・暖房の86%のエネルギー源として化石燃料を消費している.オフィスビルなど業務部門においては家庭部門ほどではないが,暖房と給湯用に業務部門全体のエネルギーの34%が消費され,部門全体の31%が化石燃料により暖房と給湯用に消費されている(1)
  9. 図4 日本のエネルギー消費量の部門別構成比
    図5 家庭部門の用途別エネルギー消費量と給湯・暖房のエネルギー源別エネルギー消費量
    (文献(1)より作成)
  10. 2-2:人工排熱の特徴
    都市における人工排熱の実態調査(2)は国土交通省・環境省により実施されたことがあり,東京23区の夏季を例として,建物,交通,事業所など都市内の排熱源からの排出量の計算手法と排出される熱量の実態を明らかにしている.また,足永ら(3)は東京23区の人工排熱の排出特性の総量と地区別類型を示し,総量に関しては昼間(7-18時)の全排熱量(全熱)の内,顕熱分が,道路交通58%,建物33%,工場6%となることを,夜間(0-6時,19-23時)については全排熱量(全熱)の内,顕熱分が道路交通38%,建物57%,工場4%となることを示している.これより,東京23区においては,道路交通,建物の顕熱排熱対策が重要であるといえる.一方,照井,鳴海ら(4)(5)は京阪神地域における人工排熱総量を明らかにしており,引用して図6に示す(ここで,産業,民生とあるのはそれぞれ工場,建物とほぼ同義と理解してよい.工場については事業所と記載されている文献もあるが,本報では引用する場合,各文献で使用されている用語を使う).臨海部に工業地帯があるため,工場(産業)の排熱(全熱)が大阪府で府全体の排熱(全熱)の55%,兵庫県で県全体の排熱(全熱)の70%を占めており,東京23区の調査(図7,図8)から類推して,その殆どが顕熱であることを仮定すると,工場における対策の重要性が理解されよう.
  11. 図6 京阪神地域における各府県別の人工排熱総量(部門別年間排熱総量)(4)
    図7 工場からの環境への排熱量
    (清掃工場を除く,東京23区の年平均値,文献(2)の調査値よりグラフ作成)
    図8 清掃工場からの環境への排熱量
    (東京23区の年平均値,文献(2)の調査値よりグラフ作成)
  12. 人工排熱の気温感度の要因として排熱位置が重要であり,空調機の排熱高さは地上近傍の気温の計算値に大きく影響する(6)ことから排熱位置に関する調査がなされている.荻島ら(7)は多層都市キャノピーモデル用に建物空調排熱位置の実態を調査している.
    工場排熱の排出位置調査(1)より,東京23区内の工場からの環境への排熱量は図7(文献(2)内の数値をグラフ化)となる.地上施設からの排熱が全排熱の99%と推定されており,煙突からの排熱は僅か1%である.清掃工場の調査結果(図8)によると,72%が地上施設からの排熱である.
  13. 2-3:人工排熱の気温影響(8)
    人工排熱の気温影響については,これまで多数の研究成果が報告されており,近畿圏全域の人工排熱データベースから,都市熱環境の数値シミュレーションを行って気温感度を考察(4)(5)した事例がある.大阪府を中心とした京阪神地区を対象に,メソスケール数値解析モデルを使用して人工排熱の気温分布に対する影響が示されている.解析において,空調排熱の排出位置は電動ターボ冷凍機や吸収冷凍機では屋上階,空冷ヒートポンプでは各階均等とするなど,空調方式により設定しており,交通部門は地上第一層としている.しかしながら,同文献で産業部門(工場)の人工排熱は全て煙突高さと仮定しているため,大阪府や兵庫県では産業排熱の総量が多いにも関わらず,地上付近の気温分布に及ぼす影響は相対的に小さく,産業排熱の有無による気温差は2時には最高値が0.4℃弱にとどまっている.大阪府における民生部門の排熱が産業部門の2分の1に満たないにもかかわらず,排熱位置が低いことにより民生排熱の有無の気温差は同時刻の2時に0.8℃程度に達することが示されている.今後,東京23区の調査(2)(図7,図8)のように,産業部門(工場)の地上施設排熱の実態調査を行い,気温感度を分析すると,産業部門排熱の気温影響が飛躍的に大きくなることが予想される.交通部門はその排熱位置が地上近傍であるため,大阪の中央部,2時における気温影響は0.4℃程度であることが報告されている.
    以上より,民生部門の対策は当然のことながら,工場排熱の大きい地域においては煙突以外(地上施設から)の排熱量の実態調査を進め,これまで以上にその低減に努めるべきである.
  14. 2-4:都市の熱消費と産業部門からの利用可能排熱の比較
    次に、大阪府域のエネルギーフローに関する既往研究結果より、大阪府の熱消費量と産業部門の排熱を比較して図示する(図9).給湯、暖房に年間80PJ(ペタジュール)の熱を消費している.産業部門からの利用可能排熱量は100℃以上の比較的高い温度レベルの排熱に限定しているが、給湯、暖房の消費量を上回り、年間98PJである.この人工排熱を家庭部門,業務部門の熱需要用に回収利用することができれば,大きな温暖化対策効果が得られる.また,人工排熱の殆どが空気温度を上昇させる顕熱であり,過半が地上施設からの排熱であることが推定される(2)(3)ため,回収利用はヒートアイランド対策としても価値がある.
  15. 図9 都市の熱消費と産業部門からの利用可能排熱(大阪府)
  16. 3.排熱処理による人工排熱(顕熱)低減
  17. 3-1:潜熱化
    建物からの空調排熱を低減するため,既存空冷室外機に水を噴霧するなどにより,排熱を潜熱化することが有効である.環境省によりヒートアイランド対策技術分野の実証事業(9) (空冷室外機から発生する顕熱抑制技術,実証機関:大阪府)がなされた.実証事業に参画した事業者の報告書は環境技術実証事業のサイト(10)で閲覧可能である.潜熱化装置の代表的な事例として,水噴霧式とクーリングマット方式を同サイトより引用して図10に示す.
    潜熱化は空調機や冷凍機の効率向上対策としても効果的である.水噴霧式の場合,室外機熱交換器部分のスケール付着,腐食による性能劣化などの対策に配慮する必要がある.クーリングマット方式は気化式なので熱交換器フィンのスケール付着が無いことが長所であるが,水噴霧方式と比べると能力が劣っている.冷却塔を採用する場合は水噴霧方式と同様,水質管理を適切に行う必要がある.
  18. 図10 空冷空調機室外機の潜熱化の例(10)
  19. 3-2:大気以外への排出
    (1) 人工水系への排熱処理(新規熱導管)
    臨海都市において人工水系として熱導管を新たに整備し,人工排熱特に空調排熱の集中する都市中心部からの排熱を海まで輸送して排出する(11)ことや冷却タワーを設け上空に排出することが検討されている(図11).
  20. 図11 冷却タワー,熱導管による都市外への輸送(8)
  21. (2) 人工水系への排熱処理(既設管路網の利用)
    既存インフラである人工水系(下水,上水,工業用水)の利用も考えられる(図12).
    下水への排熱処理(12)は既に多数事例がある.下水処理水は冷凍機の冷却水として活用されているが,処理場内での活用にとどまり,小規模なものが多い.大規模なものとしては,東京後楽地冷地区における未処理下水の熱利用事例が良く知られている(13).適用拡大へ向けて,東京都大手町地区の排熱処理を対象とした都市排熱処理システムの事業実施計画策定のための調査がなされており(14),ポンプ場だけでなく下水の幹線管路上で未処理下水を取水・ろ過した上で,冷却水と熱交換する排熱処理方式が検討されている.
    最近では芝浦水再生センター(下水処理場)の大規模な処理水利用が成功事例として知られている.
    建物の排熱を処理するだけでなく,隣接施設へ輸送し活用する,いわゆる熱融通や未利用エネルギーの面的活用(15)(16)も人工水系や次項で示す自然水系への排熱処理として位置づけられ,ヒートアイランド対策として効果がある.
  22. 図13 都市内自然水系への放熱(8)
  23. (3) 自然水系への排熱処理
    自然水系への排熱処理対象として,河川水,海水,地下水流,地下帯水層などが考えられる(図13).河川水への排熱処理の事例として過去隅田川を利用したIBM箱崎ビルが良く知られている.
    最近では,大阪中ノ島3丁目地区の地域冷暖房施設において,中ノ島の北側の河川から取水・熱交換後,南側の河川に排水している事例がある(17)
  24. 図13 都市内自然水系への放熱(8)
  25. 東京都心部の冷房排熱を東京湾に放出する排熱処理システムが検討・報告(14)されている.この方式は都心部では熱導管に排熱処理するため,本システムの導入により,東京都心部(6km四方)の夏季の最高気温を平均0.4℃低下させることができ,投資額は導管延長約5km,システム整備費400億円と試算された.また,環境影響は海水表面水温の1℃上昇域が2km2と予測され,品川火力の環境影響評価書の14km2と比べて小さいことが指摘されている.
  26. 一方,大阪市の臨海部の岸壁から1km,2km,5kmの範囲にある建物からの冷房排熱を大阪湾に排出した場合を想定して,表層温度上昇のシミュレーション結果が報告されている(18).海岸からの距離が2kmまでの排熱を処理しても表層が1℃以上温度上昇するエリアはきわめて小さいが,5kmに達すると最大で約10km2の範囲で1℃以上上昇することが推定されている(図14).
  27. 大阪市域海岸線から5kmの範囲の建物空調排熱を処理した場合
    図14 大阪湾への排熱処理による表層温度上昇(18)
  28. 4.都市域内の排熱回収による人工排熱低減
  29. 4-1:国内の動向
    建物レベルでは年間冷房を必要とする部屋からの排熱を暖房に利用するなど熱回収は省エネルギー設計として確立しているが,同一建物内での排熱と熱需要が時間的に合致する必要があるため,適用対象は限定される.都市レベルでは排熱と熱需要の空間的ギャップが課題である.そこで,エネルギー利用効率と環境性を高めた都市構築を目的とし,平成5年から12年まで,国のプロジェクト「広域エネルギー利用ネットワークシステム」が実施された.このプロジェクトは都市エネルギーシステムの複合化や統合的な都市基盤システムの確立を図ることにより,都市及び周辺産業施設を対象としてエネルギー回収・変換・輸送・貯蔵・供給などのブレークスルー技術を研究したものである.
    同時期に日本建築学会で「大阪湾ベイエリアにおける広域熱供給ネットワークシステム構想」の検討(図15) や広域熱供給ネットワークによる一次エネルギー削減率改善効果の検討がなされた(19).大阪市中心部の熱需要地から半径15kmの円内の需要地排熱施設はすべてネットワークで接続するものと仮定すると,民生部門の低温度レベル熱需要を賄うための一次エネルギーの削減率は70%を超えることが示されている(20)
  30. 図15 大阪湾ベイエリアにおける広域熱供給ネットワークシステム構想
    (文献(19)より引用)
  31. 平成11年から12年にかけて,大阪府により大阪府域における広域エネルギー供給ネットワークのケーススタディ(21)が実施された.この調査研究は,エコエネルギー都市プロジェクトで開発した要素技術と既存技術とを組み合わせて,大阪市域を中心とした広域エネルギー供給ネットワークモデルを設定し,省エネルギー効果,環境保全効果,経済性の観点から評価したものである.大阪市域の清掃工場排熱と地域熱供給施設および府の大規模建物を結ぶ広域エネルギー供給ネットワークにより,一次エネルギー消費量は16~20%の削減,二酸化炭素排出量で37~40%削減となるが,地中埋設熱導管の建設費が熱供給原価の過半を占め,経済性は成立しなかったことが報告(21)されている.
    国のプロジェクト「広域エネルギー利用ネットワークシステム」は,最終評価において,要素技術開発に偏向し,熱ネットワークの形成という本来の目的に関しては実用化に向けた道筋が示されなかったことを理由に後継プロジェクトは中止された.
    その後,経済産業省,資源エネルギー庁は,広域エネルギーネットワークより現実的な都市全体のエネルギー効率改善のため,エネルギー需要密度の高いエリアをエネルギー利用ネットワークとしてとらえる都市の面的取り組みに着目し,都市街区レベルの面的利用の方向性(22)を示した(図16).現在,エネルギーの面的利用プロジェクトは横浜における医療施設,リハビリ施設,スポーツ福祉施設の三施設間で熱・電気の融通を行い,排熱回収を実現した事例など実施例が増えつつある.
    隣接施設の熱需要特性のマッチング探索,複数建物オーナーの面的利用への理解・協力など,今後,普及に向けて継続的な取り組みが必要である.
  32. 図16 面的利用の導入形態の例(文献(22)より引用)
  33. 4-2:海外の動向
    国外ではパリ市のように広域エネルギーネットワークが構築された事例(早稲田大学 理工学術院 理工学研究所中嶋浩三氏提供)がある.パリ市では清掃工場と発電所排熱を利用した蒸気ネットワークが構築されている.パリ市近郊3ヶ所の清掃工場からのごみ排熱と2ヶ所の発電所排熱を蒸気で購入し,7ヶ所の熱専用プラントと併せて蒸気導管ネットワークにより市全域に供給している.ごみ焼却排熱による蒸気により,全供給熱量の49%を賄っている.
    他に,清掃工場や熱併給発電所をネットワーク化したコペンハーゲン市や大規模熱併給発電所からの広域幹線を整備したヘルシンキ市の事例がある(23)
    表1は国別の地域熱供給事業を比較したものであり,発電・ごみ排熱割合とあるのは熱供給量のうち発電排熱,ごみ焼却排熱を回収・利用した熱の割合を示したものである(24).日本の発電・ごみ排熱割合が低いことが理解されよう.
  34. 表1 国別地域熱供給事業の比較(24)
    図17 パリ市の蒸気ネットワーク
    (早稲田大学 理工学術院 理工学研究所 中嶋浩三氏提供による
    (CPCU社資料))
  35. 4-3:都市規模での排熱回収策
  36. 図18 地理情報レイヤ構成(8)
  37. 面的利用のより一層の拡大のため,都市は熱代謝改善の観点で,図18の地理情報のレイヤにより捉えられる(8)
    ①都市内熱需要施設,都市周辺部まで含めた排熱施設のレイヤ,②新規管路(河川や高道路下空間を利用する)敷設の可能性のあるルートのレイヤ,③熱の輸送媒体としての既存管路のレイヤ,④未利用エネルギーとしての河川水,海水,帯水層のレイヤを比較し,排熱,熱需要の空間的・時間的不一致を解消するための方策を考えねばならない.エネルギーの面的利用を推進・発展させるために,筆者は次の4つの課題を提案したい.ただし,これらの提案は事業化まで含めて検討されたものではなく構想段階である.
  38. (1) 都市内年間排熱施設からの面的利用による熱回収
    インターネットの普及に伴い,インターネットデータセンターの設置数・規模ともに増えている.データセンターでは,収容しているサーバーなど機器からの発熱が大きく,1装置(キャビネット)あたりの発熱が数kWに達する場合もあり,装置を収容している室は冬季でも冷房している.現在,データセンターの消費電力が増大することが社会問題となっている.
    わが国ではこのデータセンターの空調設備として保守性や信頼性の観点で空冷空調機が採用されることが多く,このため年間を通して室外機から大気へ定常的な顕熱の排出がなされる.
    室外機の排熱対策の一つは既に述べた潜熱化であるが,都市内にあるデータセンターの排熱を未利用エネルギーとして活用することを優先すべきである.しかし,データセンターは施設内で熱需要が無いため,これまで排熱は殆ど活用されていなかった. 海外ではデータセンターの排熱回収の動きがあることが報ぜられている.スイスではデータセンターからスイミングプールに排熱を供給している(25)
    英国のドックランドではデータセンター事業者が近隣住宅に排熱を供給する計画を2009年4月に発表した(26).小規模ではあるが,温室への排熱利用情報もある(27).わが国でもデータセンター事業者は,新築施設においては熱需要施設との複合化を,既存施設の設備更新時においては隣接建物への排熱供給の可能性を検討すべきであろう.
  39. (2) 新たな熱導管敷設ルートの開拓
    大阪府の広域エネルギー供給ネットワークのケーススタディにおいて,事業性成立を困難にしたのは地中埋設熱導管建設費である.河川,高速道路網,鉄道網などを利用して非埋設で配管を敷設できれば,建設費を大きく低減できるであろう.
    大阪市域では高速道路が湾岸域の大規模排熱工場に沿って敷設されており,熱需要施設のある市中心域まで入り込んでいる.鉄道網も都市周辺部と都市中心部を網羅している.河川の密度は鉄道網ほど高くないが,臨海部と都心域を結んでおり,河川親水空間の整備時に熱導管敷設空間を整備することが期待される.これらの都市インフラと排熱施設・熱需要施設を含めた地理情報より,新たな熱導管の敷設ルートを模索する必要があろう.
  40. (3) 既存の都市内管路インフラの活用による熱回収(下水,工業用水)
    下水・工業用水幹線を用いた未利用エネルギーの賦存量はその流量から判断するとごみ焼却排熱よりはるかに小さな量であるが,熱のバスラインとして活用できるなら魅力がある.例えば,大阪市中心部を横断する工業用水幹線の流量は1日約3万トンに過ぎないが,冬期にデータセンター等都市内排熱を工業用水へ処理できれば,排熱処理,熱回収を同一管路で実施することにより,大きなメリットが得られる.
    下水管線についても下水温度の上限など制約はあるが,可能性がある(図19).
  41. 図19 下水管線における排熱処理・回収(構想図)
  42. (4) 清掃工場排熱による上水加温
    東京都の大井清掃工場からの排熱を地域冷暖房・給湯システムに活用し,住宅,商業施設など熱需要の94%をごみ焼却排熱で賄っていることが報告されている.
    工場排熱利用に関しては,発電所排熱の利用(28),ごみ焼却熱を活用した熱源ネットワークの構築のケーススタディ(29)などが提案されている.ごみ焼却熱の利用はこれまでも実績があるが,工場と熱需要施設が隣接している場合に限定される.空間的なギャップ解消のため,普及にはさらなる技術開発が必要であろう.熱輸送手段であるトランスコンテナ方式(30)(31)も空間的,時間的ギャップ解消のための技術の一つである.
    集合住宅を対象として,コージェネレーションシステムの排熱回収のため,上水を予熱する手法(32)がある.この上水予熱の考え方を都市レベルで適用し,清掃工場近傍の上水幹線に復水器排熱を注入し,需要サイドでの給湯負荷を減少させることが考えられる(図20).
    ゴミの燃焼熱で生成した蒸気をタービンに供給し発電するものであり,蒸気タービンから排出される蒸気を大気により冷却(復水器による)している.蒸気タービンを使った動力プラントでは,普通,復水器排熱を利用することはない.熱量は大きいが,温度レベルが50℃程度と低いため,利用をあきらめてそのまま捨てられている.清掃工場が上水幹線ルート上にあれば,上水を中間期と冬期に25℃程度加熱することで住宅の給湯用エネルギー消費量を低減できる.上水を25℃程度に加熱すると配管の劣化,塩素注入量が増えるといったデメリットがあるが,夏期の水道水温を上限とすれば許容されるのではないだろうか.この上水加温は特に寒冷地において効果的である.
  43. 図20 上水加温システム(構想図)
    図21 清掃工場のごみ焼却・発電システム
  44. 図21はごみ発電機能を持った清掃工場のシステム構成を示したものである.ごみの燃焼熱はボイラで回収し,蒸気タービンへ送られ,蒸気タービンを出た蒸気は復水器で冷却されボイラへ戻される.屋上に設けられた空冷の復水器から,年間1020TJ(平均129GJ/h)の熱が大気中に放散されている.この熱は,12万〔戸〕分の集合住宅の年間給湯負荷に相当する.
  45. おわりに
    人工排熱源(交通部門を除く)の特徴と,その低減のため考えられる対策を解説し,さらに今後の課題について述べた.
    兵庫県や大阪府の人工排熱実態調査と東京23区内の排熱特性の調査から,工場排熱の対策により一層取組むべきであることを提言した.
    単独の建物における省エネルギー対策など,排熱低減対策には限界がある.工場内地上施設からの排熱実態調査と排熱処理・利用方法,自然水系への排熱処理,都市内の既存管路網による排熱処理・回収,施設間熱融通のための排熱および熱需要情報収集など,排熱低減へ向け取り組むべき課題は多い.
  46. 参考文献
    (1)日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編,EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2009年版),2009年2月,出所:経済産業省/EDMC(The Energy Data and Modeling Center,IEEJ)「総合エネルギー統計」
    (2)国土交通省・環境省,平成15年度 「都市における人工排熱抑制によるヒートアイランド対策調査」報告書,平成16年3月
    (本報告書はhttp://www.env.go.jp/air/report/h16-05/cover.pdfで公開されている)
    (3)足永靖信,李海峰,尹聖皖,顕熱潜熱の違いを考慮した東京23区における人工排熱の排出特性に関する研究,空気調和・衛生工学会論文集 ,92, 121-130,2004
    (4)照井奈都,鳴海大典,下田吉之,人工排熱の排出特性が都市熱環境の再現に及ぼす影響-京阪神地域を対象とする感度分析-,日本ヒートアイランド学会論文集,Vol.4,15-25,2009
    (5)鳴海大典,都市における人工排熱とヒートアイランド,環境技術,Vol.35,No.7,485-490,2006
    (6)井上実,近藤裕昭,亀卦川幸浩,福島明,ビル街区の温度場に及ぼす人工廃熱の影響に関する研究,大気環境学会,Vol.33(2),93-108,1998
    (7)荻島 理,谷本 潤,片山忠久,宮原直枝,都市気候モデルの境界条件生成のための建物空調排熱位置及び都市形状の実態に関する調査,日本建築学会環境系論文集,No.567,75-72,2003
    (8)空気調和・衛生工学会編,ヒートアイランド対策 都市平熱化の考え方・進め方,オーム社,平成21年4月
    (9)環境省,ヒートアイランド対策技術分野(空冷室外機から発生する顕熱抑制技術),[環境技術実証モデル事業]平成17年実証試験結果報告書の概要,pp.5,平成18年3月
    (10)環境省環境技術実証事業のサイトを参照
    http://www.env.go.jp/policy/etv/
    (11) (社)日本地域冷暖房協会,「適切な都市排熱処理を実現する都市熱供給システム導入検討調査」報告書,平成14年5月
    (12)下水熱利用促進研究会,最新下水道未利用エネルギー活用の手引き,山海堂,1994
    (13)岡田慶一,未処理下水を熱源とした東京・後楽一丁目地区 「小特集 地域熱供給と未利用エネルギーの活用」,省エネルギー 54(7), 58〜60 ,2002
    (14)国土交通省都市・地域整備局,大手町地区都市排熱処理システム事業実施計画策定調査報告書,平成18年3月
    (15)エネルギーの面的利用導入ガイドブック作成研究会,エネルギーの面的利用ガイドブック,平成17年
    (16)経済産業省資源エネルギー庁,未利用エネルギーの面的利用導入促進ガイド,平成19年3月
    (17)中澤和弘,中村信治,大阪中之島の河川水利用,空気調和・衛生工学,80(9),pp.713-718,2006
    (18)森 信人・佐地泰昭・中尾正喜・石川貴司・重松孝昌・矢持 進数値シミュレーションを用いた大阪湾への都市排熱放出の影響評価,海岸工学論文集,第55巻,1346-1350,2008
    (19)池澤広和,「都市における広域熱供給ネットワークの展望」,日本建築学会都市設備・環境管理小委員会総合都市インフラSWG報告,1999年7月13日
    (20)内田鉄平,吉田聡,砂土原聡,村上處直,「主要都市における未利用エネルギー活用可能性の検討 -日本における広域熱供給ネットワークの導入に関する研究 その1-」日本建築学会大会学術講演梗概集(九州) 40261, 1998年9月)
    (21)大阪府,大阪府域における広域エネルギー供給ネットワークのケーススタディ報告書,平成13年3月
    (22)資源エネルギー庁,「エネルギーの面的利用に関する調査」,平成17年3月
    (23)吉田聡,内田鉄平,佐土原聡,村上處直,「北欧事例との比較による広域熱供給ネットワークの導入可能都市域の抽出に関する研究」,日本建築学会学術講演梗概集,40262,9月,1998
    (24)資源エネルギー庁,エネルギー白書2006年版
    (25)http://www.datacenterknowledge.com/archives/2008/04/02/data-center-used-to-heat-swimming-pool/
    (26)http://www.datacenterknowledge.com/archives/2009/04/15/telehouse-to-heat-homes-at-docklands/
    (27)http://www.datacenterknowledge.com/archives/2008/05/16/data-center-heats-a-greenhouse/
    (28)宮沢龍雄,辻倉米蔵,循環型社会システム構築における発電所排熱の利用,日本機械学会誌,Vol.104,No.989,37-41,2001
    (29)藤木洋徳,曹鳴鳳,尾島俊雄,ごみ焼却熱を活用した熱源ネットワークの構築に関する研究-東京副都心エリアにおけるケーススタディ-,日本建築学会環境系論文集,No.619,25-31,2007
    (30)河合篤ほか,潜熱蓄熱搬送システム「トランスヒートコンテナ」による熱輸送実験,環境工学総合シンポジウム講演論文集,日本機械学会,2006(16), pp.181-183 ,2006
    (31)山田心治,オフライン熱供給システム普及へ向けて-都市に賦存する未利用排熱の有効利用-,価値総研機関紙,Best Value Vol.13,2006
    (32)森藤 晃仁 , 牛尾 雅之 , 堀之内 伸裕,酉島リバーサイドなぎさ街のマンション コージェネと上水予熱方式の5つの事例,クリーンエネルギー ,14(2), (151),pp.23-27 ,2005
    (33)中尾正喜,「人工排熱低減技術の現状と課題」,環境技術,7月,2009
都市気候・ヒートアイランドを形成する物理的メカニズムの解析

日射に対する都市表面の熱的挙動の解析

  1. 現代の都市では、表面の大部分がアスファルトとコンクリートに覆われ、都市の表面には水分がほとんど保持されていないので、砂漠に喩えられることがある。砂漠の表面は、昼間は太陽エネルギーを吸収して非常に高温となり、夜になると放射冷却によって低温となる。かくして、このような厳しい環境を耐えることのできるごく限られた生物しか住まない世界となる。一方、地表を草木などの緑が覆い、河川や湖沼などの水面がある豊かな自然環境では、水分の蒸発が各所で起こる。蒸発した水分は、降雨によって再び補給される。このような水分の蒸発と凝縮は、寒暑を和らげ気候変化を緩和する機能がある。都市気温を高温としヒートアイランド化を進行させている主たる原因の一つが、都市表面から水分が失われてしまったことである。
  2. 以上をまとめると次のようになる。都市の表面は太陽エネルギーの吸収によって加熱され、これを風や水分蒸発、赤外放射が冷却する。このバランスした状態が我々の今住んでいる都市の熱環境である。都市化前に比べ蒸発が減少し冷却機能が低下するため、都市は高温化したと要約される。
  3. 現在の研究のトピックは、都市の建物群が作り出す幾何学的形態(凸凹)が、都市の熱環境にどのように影響しているかをつきとめることである。都市の形態は、日射による表面加熱とその冷却に影響する。これについてコンピュータにより建物群の形態を再現して、熱環境シミュレーションにより分析を行っている。
大阪周辺の建物 熱環境シミュレーション

建設材料を用いた気候改善手法の開発と効果の予測

  1. ヒートアイランドを抑制し、都市の熱環境(特に夏季)を改善するためには、都市化によって失われてしまった蒸発・蒸散機能を再生することが必要である。そこで、道路のための透水性・保水性舗装材料矢建物の屋上や壁面の緑化材の開発が、研究機関や企業によって盛んに始まった。ただし、それらの材料の熱環境改善効果については依然として不明な点が多いので、その熱的性能を評価し熱環境改善効果を推定する研究を行っている。地域環境計画研究室では日射計、風向・風速計、温度・湿度計をはじめとする気象観測機器を配置し常時観測を続けるとともに、可搬性の気象観測機器や赤外線熱画像装置などを保有し、都市の熱環境観測に活用している。
都市気候の実態把握と空間特性の分析

大阪平野の気温水平分布構造に関する調査

  1. 大阪平野周辺の固定観測点約80点で観測された気温データを収集し,日変化特性から水平分布を分析する.気温の日変化特性の指標として,平均気温,最高気温,最低気温,日較差,熱帯夜デグリーアワー,真夏日デグリーアワーを用いる.8月については,62観測点の日変化特性について主成分分析をおこなった結果,第1主成分は「昼間中心の気温特性」,第2主成分は「深夜の気温特性」と解釈でき,第2主成分までで,98.4%のばらつきが説明できる.主成分得点を用いたクラスター分析の結果, 大阪平野の観測点は5つのグループに分類され,各グループの観測点が点在する地域は「内陸平野部」「都心部」「沿岸部」「平野周縁部」「内陸平野周縁部」と地理的な特徴があり,第1主成分は地形の影響を,第2主成分は都市化の影響を反映した軸であることがわかった.【鍋島美奈子、西岡真稔、中尾正喜:大阪平野における夏季気温の水平分布構造、空気・調和衛生工学会論文集、No.140、pp.1-10、2008】
大阪平野の気温水平分布構造

道頓堀川・木津川周辺の風の道に関する調査

  1. ・道頓堀川沿いと堀江地区の風と緑に関する実測調査:大阪市の中心部を東西に流れる道頓堀川沿いで,気温,風向風速などの実測を毎年夏に実施している.道頓堀川は川幅が約50mと小規模は堀川であるが,上空85mのタワー観測点と同様のタイミングで海風がふきこみ(風速比は0.5程度),海風による日中の気温上昇緩和が観測された.大阪管区気象台との気温差は海風時の風速2~3m/sで最大になり,道頓堀川の方が約2.5℃低い。
  2. ・長堀通りと堀江地区の風と緑に関する実測調査:長堀通りは道頓堀川と同様に海風が進入しており、長堀通のほうが0.5m/s程度風速が大きいが,気温が高い.9時から15時の気温上昇は道頓堀川沿いでは上空85mと同程度であるが、長堀通では上空85mより2℃程度上昇幅が大きい.堀江地区では,海風進入後は堀江地区西側(木津川から約500m),または道頓堀川近傍1ブロック以内で,かつ建ぺい率30%以下と緑被率30%以上のセル(10m角)で相対的に気温が低くなっていた.ただし,大通りは交通量の影響を別途考慮する必要がある.
  3. ・道頓堀川・木津川に囲まれた堀江、新町地区は海風日では夕方、早朝共に東側より西側の方が気温の低い傾向が見られた。特に、海風日夕方は西から進入する海風と風上側の木津川の影響で気温の上昇が抑制されたと考えられる。下図は左から順に、2008/8/2の14:30、19:30の堀江、新町地区の気温分布図である。
風の道に関する調査図風の道に関する調査図

移動体による移動観測手法の研究

  1. 移動観測は定点観測に比べて、観測点の空間密度を飛躍的に高めることができるが、同時刻の空間分布を考察したい場合は、時刻補正やセンサー応答の遅れなどデータ処理をおこなう必要がある。移動観測で得られたデータの特性を把握し、適正なデータ処理方法について検討している。
移動観測車概要

気温分布図作成における空間補間方法の研究

気温分布図作成手順 気温分布図

地域環境性能向上に資するデータベースの構築

  1. ・GISを利用して、さまざまな空間データを収集し、地域の環境改善に貢献するデータベースの構築をめざしている。
  2. 大阪の熱帯夜の発生状況に関する研究 [#tefc1723]

  3. ・全国的に見て大阪の熱帯夜の多さは群を抜いている。地理的な要因に加え、ヒートアイランド現象などの都市気候の形成も原因のひとつと考えられる。そこで、過去の気象データから熱帯夜日数と降水量の関係や、熱帯夜発生日の風向風速など大阪の地域特性を調べている。また、ヒートアイランドの実態を把握するため、2002年8月には他大学と連携して大阪市内の気温観測会をおこなった。
熱帯夜日数の全国比較 近畿地方熱帯夜日数分布